奈良5

奈良平城京跡から飛鳥へ (５) 薬師寺　

イバイチの
旅のつれづれ

５、薬師寺

　① 薬師寺大池(勝間田池）

　奈良西ノ京薬師寺に行く。宿泊している奈良ロイヤルホテルからは、近鉄奈良線新大宮駅から、大和西大寺駅に行き、そこで近鉄橿原神宮線に乗り換え二つ目の西ノ京駅で降りる。駅から東に行くとすぐに薬師寺に入れるが、大池から二つの塔を見るために西に向かって２０分ほど歩いて薬師寺大池(勝間田池）に出る。ここから薬師寺の東塔と西塔を眺めるのが、今回の旅の目的の一つだった。

　実際にこの場所に行ったのは、平城宮跡を見学した日の夕方だったので、新しい西塔の上部にある相輪に夕陽があたって光り輝いていた。写真をやっているＭ君の年賀状にあった風景である。ポスターや絵ハガキなどでもお馴染みであるが、実地に立ってみると感慨ひとしおなものがある。

　この風景のうち東塔が解体修理のために今後１０年間見られなくなると思うと、なおさら目に焼き付け様と思うせいかもしれない。ここからは朝、日の出の時や夜、ライトアップされた塔と金堂のシルエットも素晴らしく多くのカメラマンが多く来て賑わい、場所取りが大変だそうである。この日も１０人以上のカメラマンが居てシャッターチャンスを窺っていた。昭和５１年（1976）に金堂が再建され、昭和５６年（1981）に西塔が再建される以前は東塔しか無く、この場所はビューポイントには成り得なかっただろう。(ライトアップの写真はウィキペディアからの引用です）
（H22-10-1２訪）

　② 薬師寺白鳳伽藍

　近鉄西ノ京駅から案内板に従って行くと、直ぐ薬師寺の白鳳伽藍の裏門に当たる與楽門があり北受付がある。20年前の平成2年に訪問した時は玄奘三蔵院伽藍は無く、薬師寺と云えば白鳳伽藍の方の意味だった。

　薬師寺は当初飛鳥の藤原宮に建立された。飛鳥浄御原(あすかきよみはら)宮で天武天皇が皇后の病気平癒のために建立の発願をしたのだが、そのかいあってか皇后の病は治ったのだが、天武天皇が病を得て亡くなってしまった。その次の天皇が皇后だった持統天皇である。最初天武天皇は飛鳥宮の近くに造営を始めたという説もあるが、とにかく藤原宮に遷都した持統天皇がその藤原宮内に薬師寺を建立した。

　その後710年(和銅3年）に平城京に遷都したため、薬師寺は新しく現在の地に建立され、藤原宮の方は本薬師寺として暫く存続して、現在は本薬師寺跡として特別史跡に指定されているそうである。平城京の薬師寺はその後隆盛を極めたが、度重なる兵火で東塔以外の堂宇は灰燼に帰して、創建当時の建物は東塔しかないのである。

　現在の白鳳伽藍の復興については高田好胤管主を忘れることは出来ない。高田師が管主になった昭和42年（1967）の薬師寺は荒廃して主要堂宇は東塔と江戸時代後期に建てられた仮金堂と少し離れた東院堂しか無く、本尊の薬師三尊を祀る仮金堂も屋根には穴があき雨漏りする状態だったという。薬師寺は檀家が無いため、有力者からの寄付を勧進して修理などをするしかなかったのである。

　高田師は管主になるとすぐ金堂の再建を志したがその費用は10億円必要だと知り、その費用の捻出のために周囲からあきれられ、冷笑されながら全国を行脚して１巻1千円の般若心経の写経納経による勧進を行った。その結果ついに9年後の昭和51年（1976）に100万巻の写経を集めて金堂が再建できたのである。さらに5年後の昭和56年（1981）に西塔を再建した。

　その後も写経による勧進は続き、中門、回廊を再建し、平成15年（2003）には薬師寺最大の建物である講堂が再建され、中門から東西の回廊が講堂まで続き、その回廊で囲まれた中に東西の塔と金堂を置いた薬師寺式伽藍がほぼ完成した。この写経勧進の手法を考え出した橋本師は講堂の完成を見ることなく平成10年に７４才で亡くなられた。私も平成２年に薬師寺を訪れた際に、この話に感銘を受け般若心経を１巻写経した。納経勧進は現在も続けられているが１巻２０００円に値上がりしているそうである。

　薬師寺は本来の正門は南門だが、西ノ京駅からは大きく回り道をするようになり、案内板なども無いため裏門に当たる與楽門から入る人が多い。與楽門から大きく回って昭和59年（1984）に再建された中門の前に出る。本当は南門の外から２つの塔を写したかったのだが入場料を払い直さなければならないようだったので中門と西塔(左側の写真)、中門と東塔(右側の写真）を別々に写す。

　中門を出ると正面に金堂がある。２階建てだが各層に裳階（もこし）が付けられ、竜宮造りと称される豪華な御堂である。中には国宝の薬師如来坐像、日光菩薩立像、月光菩薩立像の薬師三尊が祀られている。製作は奈良白鳳時代の７～８世紀ということである。ここの薬師如来は堂々とした顔立ちでいかにも信頼したくなる雰囲気を持っている。日光月光両菩薩像は腰を少しひねり、心持ち前傾姿勢の優美な姿であり、中央の薬師如来の端正さを際立たせている。黒光りした３体の像からは何時までも拝観していたくなる強い印象を受ける。(薬師三尊の写真はウィキペディアからの引用です）

　東塔に行く。薬師寺で唯一1300年前の創建当時からの建物である。今年（2010）秋からの解体修理予定が少し遅れて来年（2011）2月頃からになるらしい。解体修理は10年掛かるそうなので、その前に二つの塔が並立しているのを見たいというのが今回の旅の動機の一つだった。この塔は三重塔なのだが、各階に裳階（もこし）が付けられているので六重の塔に見える。創建当時金堂と講堂そしてこの二つの塔が裳階で飾られ、黒い瓦と白壁そして朱色の柱の色彩で飾られた堂宇は、それこそこの世の竜宮城のような華麗さを呈していたのだろう。そのようなことはこの塔が残っていたために分かることで、この塔があることが白鳳伽藍の復活の足掛かりになった。もし無かったら昔の薬師寺の様子が皆目分からなかったのである。（写真右側は金堂と東塔）

　塔の屋根の上部にある突起物を相輪と言う。九つの輪が取り付けてあるので九輪とも呼ばれ、五知如来と四菩薩を表しているという。相輪上部には水煙という火焔形の装飾物が取り付けてある。塔を雷や火災から守る水をイメージしたものだといわれる。東塔の水煙は和辻哲郎が「古寺巡礼」で絶賛していてように、飛天が彫り込まれた文様はよく知られている。(水煙模型の写真はウィキペディアからの引用です）

　対になる西塔は昭和５６年（1981）に再建された。棟梁の西岡常一は法隆寺金堂の解体修理や薬師寺金堂再建を手掛けた名棟梁である。現在の西塔は東塔より30cm高くなっており、柱の沈み具合を考えて５００年後に同じ高さになるように造られたそうである。西塔の水煙は４隅に風鐸が取り付けられているが飛天の透かし彫りがあるのは東塔と同じである。

　金堂を過ぎると平成15年（2003）に再建された大講堂がある。西岡棟梁が基本設計を手掛けたもので、金堂や三重塔と同様に裳階が取り付けられた全長４１mあるという薬師寺最大の伽藍である。中に安置されているのは重要文化財の弥勒三尊である。大講堂の裏面側に国宝の「仏足石」「仏足跡歌碑」が置かれているが、これには取り立てて感興は覚えなかった。（写真は手前が金堂、奥が大講堂）

　③ 薬師寺玄奘三蔵院伽藍

 　與楽門に戻り、平成３年（1991）に新設された玄奘三蔵院伽藍に行く。薬師寺は興福寺と並んで法相宗の大本山であるが、法相宗の始祖は西遊記の玄奘三蔵法師なのである。その玄奘三蔵の頂骨を祀るための伽藍が平成３年（1991）に建立された。正面に礼門があり４方に回廊を回してある。中央には玄奘三蔵の仏舎利を安置した玄奘塔があり、後方には平山郁夫が描いた大唐西域壁画を納めた大唐西域壁画館が主要な建物で、玄奘三蔵院伽藍と名付けられた。この伽藍も西岡常一棟梁が建てたものだが、再建したものではなく自分のオリジナルな考えで建立した伽藍である。(写真は礼門と回廊、玄奘塔）

　大唐西域壁画は平成１２年（2000）年末に完成奉納されたもので、長安から天竺に至る玄奘三蔵の苦難の旅を偲んで７場面からなる幅５０mの壁画で、破壊されたバーミヤンの仏像も描かれ、天井には星座が描かれている。(写真は壁画の下図の一部：平山郁夫美術館ホームページからの引用）

　平山郁夫は昭和４１年（1966）に中世オリエント遺跡学術調査団に参加し、トルコに赴き、昭和５１年（1976）に玄奘三蔵のイメージを｢仏教伝来」で描いてシルクロードへの関心を深めていった。以後の取材旅行は中近東・中央アジア・インド・中国など150回を超え、その行程は40万キロにおよんでいる。そしてその集大成として昭和５５年（1980）から鎌倉の自宅にある平山郁夫絵所で薬師寺玄奘三蔵院壁画絵始めを行い、玄奘三蔵の足跡を訪ねた30年間の取材旅行の集大成として、2000年12月31日に奉納したと、平山郁夫美術館のホームページに書かれている。

　大唐西域壁画を見て礼門前に戻る。松の緑の先に大講堂の金色の鴟尾や二つの塔の相輪が鮮やかに眺められる。

　玄奘三蔵院伽藍は例年は年３回だけ公開されるが、平成２２年（2010）は平城遷都１３００年祭で通年公開されている。平成２３年（2011）は１月１８日から３月６日まで東京国立博物館平成館で「仏教伝来の道　平山郁夫と文化財保護」という展覧会が開催されるが、そこに今まで門外不出だったこの薬師寺の大唐西域壁画がメイン展示される。
（H22-10-1４訪）
　
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