伊東 潤 の「ライトマイファイア」を読んで
 

2018年7月 22日 (日)
ライトマイファイア    伊東 潤著   2018年6月発売

Img_6731 この本は時代小説家の伊東潤が2016年に発行した「横浜1963」以来、2冊目の現代小説である。


 前作はあまり良い出来栄えとは思えなかったが、今回は1970年(昭和45年)発生のよど号ハイジャック事件の犯人の中に公安の警察官がいたという仮説で、その潜入から脱出までの経緯をスリル満点に描いている。

 一方その45年後の2015年(平成27年)に発生した川崎市の簡易宿泊所放火事件の捜査をする警察官との関連をつなぎ合わせ、さらに現在のアメリカの傘下にある日本の現状も見えてくる、読んで満足のいく作品である。

 まず、公安の三橋は中野と名を変え、昭和44年4月から大学生としてある大学に入学し、学生運動の一員として活動を始めた。その結果赤軍派の「さど号」ハイジャックの実行犯を命じられた。だが、下っ端のため命じられたことをやるだけでしかなかった。

 公安の上司にこの計画を伝えたが、そちらからの指令も無く、ハイジャックは実行され北朝鮮に到着した。その間の出来事を三橋がハイジャックの一員として、また警察官として人質になった乗客の安全を守れるかとの相剋に悩みながら推移していく描写は手に汗を握る場面である。

 本来の赤軍派の計画では北朝鮮からキューバに行く筈だったが、北朝鮮側はメンバーを洗脳して革命戦士として生まれ変わらせ各種工作に従事させようとしていた。

 それを知った三橋は何とかして脱出することを考え警備艇を強奪し、迫りくる危機を何とか乗り越えて、韓国領海で米国巡視艇に拿捕された。その時一緒に逃げた男がいたが、北朝鮮巡視艇の銃弾で亡くなった。この脱出劇も眼を離せないスリル満点な描写で描かれている。

 その事件から45年後、10人の死者を出した簡易宿泊所放火事件を追っている寺島刑事は亡くなった10人の身元確認を担当したが最後の一人がなかなか判らず、放火犯の目星も付けられなかった。しかし僅かな手掛かりを丹念に追っていくことから驚愕な事実が判明する。

 それについて、文芸評論家縄田一男は、「この作品は一編のミステリーでもあるからにして、詳しくは書けないが、エピローグを読んでこう言おうではないか 『蟷螂(とうろう)にも、斧はあるのだ、と。』と書いている。

 なお、表題のライトマイファイアは、アメリカのThe Doors (ドアーズ楽団)の楽曲 「Light  My Fire (邦題はハートに火をつけて)」 を引用している。本文の406ページに歌詞の一部が載せてある。

 今(平成30年【2018】)から50年近く前の1969年の東大安田講堂占拠事件から翌年のよど号ハイジャック事件、1972年の浅間山荘事件と続いた、全学連から日本赤軍が起こした騒然とした空気を久し振りに思いだした。

 改めて思い起こすと日本とアメリアとの関係、北朝鮮と日本との関係、沖縄問題とも50年前とほとんど変わっていない。その間で暗躍する日本の政治家や財界のブローカーなどの跳梁も同様であろうか?


 
(この項終わり)

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