松島

松島海岸

　塩竃から再び国道４５号線を松島に向かう。双観山展望台を過ぎると、直ぐ松島海岸に出る。芭蕉は出立の時　「松島の月まづ心にかかりて」　と一番行きたい場所だと言っているが、松島に着いてその思い入れを漢文調の素晴らしい美文で表現している。

　原文を次に記す。　「松島は扶桑第一の好風にして、およそ洞庭・西湖を恥じず。東南より海を入れて江の内三里、淅江の湖（うしほ）をたたふ。島々の数を尽して、欷（そばだ）つものは天を指（ゆびさ）し、伏すものは波に匍匐（はらば）ふ。あるは二重にかさなり三重に畳みて、左にわかれ右につらなる。負へるあり抱けるあり、児孫愛すがごとし。松の緑こまやかに、枝葉汐風に吹きたわめて、屈曲おのづから矯めたるがごとし。その気色?然（ようぜん）として美人の顔を粧ふ。ちはやぶる神の昔・大山祇のなせるわざにや。造化の天工、いずれの人か筆をふるい詞を尽さむ」　とあり、その後月光が海に映って昼とは違った趣きがあると記している。(写真は観欄亭からの松島湾）
そして曾良の　「松島や　鶴に身を借れ　ほととぎす」　の句を載せてある。芭蕉は　「予は口をとじて」　といっているが、実際には　「島々や　千々に砕きて　夏の海」　との句を詠んでいるが、あまり好い出来ではなかったので載せなかったと云われている。

雄島

　まず雄島に行く。朱塗りの渡月橋を渡るとすぐに奥の細道「雄島」の道標があり、付近には数多くの歌碑・句碑が林立している。芭蕉の句碑もあると思うのだが場所が判らなかった。
　この島には多くの岩窟があるが、昔、死者の浄土往生を祈念したところで、内部の壁面には卒塔婆や仏像、法名を彫った跡が数多く見うけられる。雨模様のなか雲居禅師の座禅堂まで行って引返した。
　おくの細道にも「雲居禅師の別室の跡、座禅石など有。将（はた）松の木陰に世をいとう人も稀々見え侍りて、」と当時でも出家した人も居ると記している。雲居（うんご）禅師とは瑞巖寺中興の祖であるが、後年雄島に隠居所を建て移り住んで座禅三昧で過ごしたと云われている。(写真は渡月橋と雄島の道標)
　雄島は歌枕の地であり、百人一首には殷富門院大輔の　「見せばやな　雄島の海女の袖だにも　濡れにぞ濡れし色はかはらず」　があり、他にも清原元輔の　「松島の　磯にむれゐる蘆鶴の　おのがさまざまみえし千代かな」　や源重之の　「松島や　雄島の磯にあさりせし　海人の袖こそかくはぬれしか」　などの歌がある。
　渡月橋から道を左に行き、短いトンネルをくぐると三方に岩窟のある崖とわずかばかりの平地がある。ここはおくのほそ道の瑞巌寺の段にある　｢彼見仏聖の寺はいずくにやとしたわる。」　の見仏上人が、法華経６０,０００部を読誦した見仏堂の跡で、見仏上人は、この場所で１２年間もの長きにわたって修行を続けたという。
　見仏上人は、長治元年(1104)伯耆国(鳥取県)から雄島に渡った僧で、「瑞巌寺の歴史」という本に、「延福寺時代約四百年を通じ、開山の慈覚大師を除き、一番著名な高徳の僧は、雄島に住した見仏上人であろう」と記される程の人物である。

五大堂

　雄島から少し先にある松島海岸の中心地にある遊覧船乗り場前の駐車場に車を停める。ゴールデンウイークが終わったばかりの早朝だったので駐車場はがら空きだった。歩いて２～３分で行ける五大堂も人影は少なく、のんびりと一周する。ここは大同２年(807)に坂上田村麻呂が東征のおり、毘沙門堂を建立したのが最初だといわれ、後に慈覚大師が延福寺（瑞巌寺の前身）を開いた際、大聖不動明王を中心に、左右降三世、軍荼利、大威徳、金剛夜叉の五大明王像を安置したことから、五大堂と呼ばれるようになったそうである。
　現在の建物は、伊達政宗が再建したもので桃山式建築手法の粋をつくして完工したものである。土門拳が昭和４９年(1974)に雪の五大堂を撮った場所（橋桁の間から下の海が見える透かし橋のたもと）から同じアングルで写真を撮ったが、松の枝が伸びて当時その全体像が写っていた五大堂は屋根しか見えず、３０年足らずだが歳月の経過を感じる。まして芭蕉が松島に来た元禄二年(1689)からは３２０年近く経っている。芭蕉が歌枕の跡を辿りその変わり様を嘆じたように、芭蕉の踏み跡が当時の面影を留めていないのも無理からぬことかもしれない。
　（Ｈ１４-５-７訪）

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注２）　青字は「おくのほそ道」にある句です。
注３）　緑字は「おくのほそ道」の文章です。

H21-10-19 作成