haiku2

　前回の「おくのほそ道の俳句（1）」に引き続き、芭蕉が「おくのほそ道」に記した俳句十句を
ＹouTubeでアップした。

　前回は「千住」での矢立て始めの句から白河の関を越えるまでの十句だったが、今回は白河の関を越えて「みちのく」に入り、須賀川から松島を過ぎ、平泉に至るまでの行程で詠んだ十句である。

　　須賀川　　　　11　　風流の　初めや奥の　田植うた

　　　　　　　　　　 12 　　世の人の　見付けぬ花や　軒の栗

　　信夫の里　　13　　早苗とる　手もとや昔　しのぶ摺

　　医王寺　　　 14 　笈も太刀も　五月にかざれ帋幟　（かみのぼり）

　武隈　　　　　15 　　櫻より　松は二木（ふたき）を　三月越し

　　笠島　　　　　 16 　　笠島は　いづこさ月の　ぬかり道

　　宮城野　　　　17　　あやめ草　足に結ん　草鞋の緒

　　松島　　　　　 18　　松島や　鶴に身を借れ　ほととぎす　　　曾良

　　平泉　　　　　 19　　夏草や　兵どもが　夢の跡

　　　　　　　　　　 20　　五月雨の　降りのこしてや　光堂

　白河の関を越えた芭蕉一行は須賀川で奥州俳壇の有力者であり、芭蕉の旧友である相楽等窮と再会し7泊した。その間に乙字ヶ滝に行き句を詠んだが「おくのほそ道（以下ほそ道と記す）」には記されていない。代わりに大きな栗の木陰に庵を結んでいる可伸という俳人を詠んだ句を残している。

　信夫の里と云われる地域にある福島市文字摺観音の境内に、文字摺石と云う大きな石が置かれている。小倉百人一首の「みちのくの　忍ぶもじずり誰ゆえに　乱れそめにし　我ならなくに」の歌枕の地（和歌の題材にされた場所）である。

　飯塚では佐藤庄司の旧跡に立ち寄っている。佐藤庄司の二人の息子は源義経に臣従し、義経の身代わりになり討死した。義経は平泉に逃れる途中、菩提寺の医王寺に立ち寄り、義経の太刀と弁慶の笈（おい）とを什物（記念の品）として置いて行ったと「ほそ道」に記されている。

　岩沼市の竹駒稲荷神社には幹が根本から２本に分れている歌枕の「武隈の松」がある。江戸を出る時、餞別句として贈られた「武隈の　松みせ申せ　遅桜」に応えた句を詠んだと「ほそ道」に記されている。

　名取市笠島に古（いにしえ）の歌人の墓を訪ねるつもりだったが、道は遠く五月雨でぬかるんでいて断念し、遥かに望んだだけだと記している。

　宮城野の萩で知られる仙台ではつゝじが岡、木ノ下国分寺跡の薬師堂などの歌枕を巡った。端午の節句に因んで紺の染め緒をつけた草鞋を餞別に贈られて心憎いと記している。　

　仙台から塩釜に行く道筋に奈良時代に国府が置かれた多賀城跡がある。此処には奈良時代に国府を改修した記念碑である多賀城碑が置かれ、「壷の碑（いしぶみ）」として知られている。芭蕉はここでは句は作らなかったがこの碑を見て、歌枕などに詠まれたところは変わってしまったところが多いのに、此処には昔と変わらぬものがあり涙が出るほど嬉しいと記している。

　松島では、芭蕉は名句が出来ず、曽良の句だけが記されている。その代わり　「松島は扶桑第一の好風にして、およそ洞庭・西湖を恥じず。東南より海を入れて江の内三里、淅江の湖（うしほ）をたたふ。島々の数を尽して、欷（そばだ）つものは天を指（ゆびさ）し、伏すものは波に匍匐（はらば）ふ。あるは二重にかさなり三重に畳みて、左にわかれ右につらなる。負へるあり抱けるあり、児孫愛すがごとし。松の緑こまやかに、枝葉汐風に吹きたわめて、屈曲おのづから矯めたるがごとし。その気色?然（ようぜん）として美人の顔を粧ふ。ちはやぶる神の昔・大山祇のなせるわざにや。造化の天工、いずれの人か筆をふるい詞を尽さむ」という名文を残している。
　後世になって芭蕉ほどの俳人が松島で句を作らないはずが無いということで、松島の絶景を見て言葉を失い、「松島や　ああ松島や　松島や｣といって口をつぐんだという伝説が生まれたほどである。

　芭蕉と曽良は、5月12日（陽暦の6月28日）に平泉に到着した。義経最後の地となった高館義経堂を訪れた芭蕉は「偖(さて）も義臣すぐってこの城にこもり、功名一時の叢となる。『国破れて山河あり、城春にして草青みたり』と、笠打敷きて時のうつるまで泪を落し侍りぬ。」と述べた後「夏草や---」の句を残している。ここでひと時を過ごした後、衣川、中尊寺、光堂などを巡って一の関に泊った。

　　芭蕉一行は当初の目的である松島、平泉を訪れることが出来て、ほっと一息ついたことだろう。ここまでが「おくのほそ道」の第一部で、この後太平洋側から奥羽山脈を越えて、山寺立石寺、出羽三山に詣り、日本海側の酒田・象潟に向かう第二部が始まるのである。

（以下次号）

Ｈ２7-５-２５作成