「雲上雲下」を読んで
 

2018年 4月 15日 (日)
雲上雲下    朝井 まかて著   2018年3月発売

 朝井まかては幕末の水戸藩に関連する作品「恋歌」で平成25年に直木賞を受賞した作家であり、「雲上雲下」以前に15冊発行された中で11冊愛読している好きな作家である。

 今回の作品は民話や物語りの世界を再構成して、枯れることの出来ない丈の長い草「草どん」がしっぽの短い子狐に語ることから始まる。

傘地蔵、竹取物語、浦島太郎、龍の子太郎、九尾の狐などの子供時代に聞いたり読んだりしたお伽噺を違ったストーリーに再構築して話し聞かせる物語は、昔のことを思い出させながら、そのお伽噺を発展させた新しい話に引き入れられ、つい長時間読みふけってしまった。

 しかし物語は途中から交錯し、雲上雲下がひずみ始める。「草どん」は自分が天の神様に民草の間の物語を披露するお伽衆だったことを思い出し、天上では神々がしばらくお伽衆の話を聞いていなかったということで、「草どん」=福耳彦命を天上に呼び戻す。

 やがて「草どん」の居た場所が切り崩されて団地が出来ることになる。そして天上に戻った、「草どん」=福耳彦命の耳には殺伐とした言葉しか聞こえてこない。効率優先、結果第一の余裕のない社会では物語は消えてしまうのか?

 作者は、今回の本を書く前に、全国あちこちの民話を聞き歩いたそうで、語り継がないと消えてしまう民話を途絶えさせてはいけないという作者のメッセージがファンタジーの中に強く込められている。

 文芸評論家、縄田一男は「なんと素晴らしい一巻であることか。全読書人必読の一冊と言っていい。文学史に残る作品である。」と激賞している。


(この項終わり)




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