人新世の資本論」を読んで

2021年 2月 20日 (土)
 人新世の資本論 
    
    斎藤 幸平作

     (株)集英社  2020年9月22日 第1版発売 
               2021年1月13日 第6版発売

 2021年1月16日の朝日新聞読書欄に「売れている本」として「人新世(ひとしんせい)の資本論」について東大教授、本田由紀氏の解説が載っており、興味を惹かれたので読むことにした。

 資本論は御承知のようにカール.マルクスが150年も前に唱え、アダム・スミスの「市場に任せておけば経済はうまくいく」という考え方から「市場に任せておけば労働者は搾取されるだけ、それを避けるためには労働者が社会を管理する体制にすればよい」ということで、第二次世界大戦後には社会主義や共産主義の国家が誕生したが、20世紀の終わり頃には失敗に終わって崩壊または資本主義への転換が余儀なくされている。
 資本主義社会とは利潤の最大化を目的とするものであり、一般大衆が生活を向上しても、更によりよい生活を求めさせ、新しいまた高級なものを求めさせるために働くことを推進するため、余分なものは増え、または買い替えるため、生活はいつでも窮迫することになる。

 最近の世界の主要国家では貧富の差が以前より激しくなり、アメリカのトランプ大統領の出現やイギリスのUC脱退に見られるように自国第一主義や中国のように国家の膨張主義などが増えるなど世界各地でのひずみが増大しており、更にその結果による地球温暖化による気候変動は地球に危機をもたらしている。

 その原因は経済成長を目的とする現行の資本主義によるものであり、それを打開し、経済成長、利潤の拡大を目的にしない体制にする必要がある。
 マルクスの資本論は第1部がマルクスによって出版されたが、マルクスの死によってエンゲルスが遺稿を取りまとめて第2部、第3部まで出版した。
 しかしマルクスの遺稿は膨大であり、マルクスのまだ発売されていない資本論の原稿には、経済成長、利潤の拡大を目的にしない体制にするための方策として、エネルギーや生産手段などの生活に不可欠な「コモン」を自分たちで管理するという脱成長の方策が示されており、それを実行することにより、加速度的に進む環境破壊と温暖化を防止出来るというのである。

 つまり、資本主義が利潤のあくなき拡大を目指してすべてを市場と商品化に巻き込み、自然の略奪、人間の搾取、巨大な不平等と欠乏を生み出してきており、地球の温暖化による人類や動植物の滅亡を防止し、自然の様相を取り戻すには資本主義を変えなければ解決出来ないが、そのための脱成長の考え方をマルクスは資本論の原稿に書いてあるというのである。

 しかしこれからその構想をどう進めるのだろうか、脱成長コミュニズムを実現するための価値観の転換は可能か、権力や財力を握っている層の抵抗は超えられるか、などの課題は山積みであり前途の多難さを思わせる。

 ここに「3.5%」という数字がある。「3.5%」の人々が非暴力的な方法で、本気になって立ち上がると社会が大きく変わるという事例研究の結果である。数十人から始まった抗議活動が社会に大きなインパクトを呼び、デモは数万〜数十万規模になり、SNSでその動画は数十万〜数百万回拡散される。そうなると選挙では数百万の票になる。これぞ変革への道である。
 と最後に作者である斎藤幸平は述べている。若い人たちには必読の書であると思う。

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